池田信夫「イノベーションの経済学」第6章 ファイナンス

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SBI大学院大学がYouTubeにアップロードした池田信夫さんのイノベーションの経済学「第1章 イノベーションとは何か」と「第2章 イノベーションの思想史」と「第3章 経済成長と生産性」と「第4章 起業家精神」と「第5章 技術革新」の続きです。

第6章は「ファイナンス」というテーマです。

Facebookはマーク・ザッカーバーグが寮のパソコンをサーバーにしてはじめたんですね。

そんな大学生に50万ドルもの大金を投資する投資家がいるのがアメリカという国なんですね。

この章では「融資と投資」「ベンチャー・キャピタル」「日本の中小企業融資」の3つの分類でファイナンスについて説明しています。

すごく分かりやすい説明でしたが、投資してもらえるようなビジネスを見つけて実行するのは非常に難しいと思いました。

まぁ、誰もができる簡単なことをしても、大した成果は得られないですけどね。

イノベーションの経済学

第6章 ファイナンス

第1節 融資と投資

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イノベーションといってもお金がないとできない。お金をどうやって調達するかというのが「ファイナンス」。

普通は「金融」とか「資金調達」と言うけど、日本語の「金融」とは「銀行」というイメージが強いので、最近は資本市場も含めて「ファイナンス」という言葉を使うことが多い。

「ファイナンス」という場合でも2通りある。融資(ローリスク・ローリターン)と投資(ハイリスク・ハイリターン)。

銀行とか信用金庫などによる「融資」。基本的には元本を回収する。金利は年に数%から10%ちょっと。それほど高いリターンではないが、確実に一定のリターンを取る。

お金を借りた方から言うと、儲かっても損をしても、一定の金利を払わなければいけない。

お金を返せなくなった場合は、いわゆる倒産ということになって、担保を取っている場合には、その会社の担保の所有権は銀行に移る。資産のコントロール権。お金を貸している側が資産をとるのが「融資」のルール。

担保は必ずしも必要ではないが、基本的には担保をとることが多い。典型的には土地。土地の評価額の8割くらいを担保評価額にして、倒産した場合には土地を銀行が回収して、その土地を売却して融資を回収する。

基本的には債権者側(お金を貸す側)から見ると、あまりリスクは高くない。担保がある限りは、最悪の場合、その企業が潰れちゃった場合でも、土地さえ売却すれば貸したお金は回収できる。

その代わり、リターンは高くない。優良企業だと数%、中小企業になっても十数%。今は貸金業法違反になってしまうので、3割、4割取れるということはない。

「融資」はどういう企業に向いているかというと、小売店や町工場といった昔からずーと続いていて売上が大幅に伸びるという期待はできないが、来年潰れる心配もそれほどないという企業。たとえば、系列企業の下請けになっている企業。何かあっても親会社が面倒をみてくれることが多いので倒産する心配が少ない。ローリスク・ローリターンのビジネス。駅前商店街の小売店も売上が倍増することは考えられないけれど、1年に2割、3割くらいの利益がでれば、銀行に1割払っても十分元がとれる。

「融資」とは堅実なビジネス向け。

実は、「融資」と「投資」というのは、英語で言うと両方とも「investiment」と言って区別しない。日本語では両方を表す言葉がない。

「融資」と「投資」の区別が分からなくなると、「ファイナンス」という風にややこしくなる。

「融資」というのは英語で言うと「lending」、「投資」は狭い意味での「investiment」。英語で「investiment」と言う場合には、「lending」も含むことが多い。

日本語は「融資」と「投資」の区別がはっきりしている。概念として別。

「投資」というのは、投資家が株式会社に対して、株式を買うという形でお金を提供する。「融資」のように、貸したお金を返してもらうということは、基本的には想定していない。資本金なので、基本的にはその株式会社でずっと使うお金を出資する。ただし、その株券は他の人に売れるのが「投資」。

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「投資」は「融資」とは全く逆。配当は非常に高い場合もあるし、もっと大きいのはキャピタルゲイン(債券や株式など資産の価格の上昇による利益)。日本の株式の場合はキャピタルゲインの方がはるかに大きい。配当性向はそれほど高くない。

グーグルの場合だと、最初に110万ドルを出資し、今の時価総額が1500億ドル。10万倍以上。

その代わり、会社が潰れてしまった場合には、会社の資産を自分のものにするという条項はない。

普通の会社の場合は、融資と投資の両方を受けていることが多い。銀行からお金を借りるのと、自己資本を持っているのと、両方。

会社がおかしくなった場合には、債権者の債券が優先。もちろん、一番優先なのは労働者などの給料を支払うこと。その次は、銀行(債権者)にお金を返す。最後にお金に残れば、投資家にいくらか返す。

会社が債務超過になった場合には、まったくの紙切れになる。投資家はそういうリスクを承知で投資をする。リスクも高いけどリターンも高い。

投資は駅前のレストランや小売店、下請けの町工場、洗濯屋といった仕事には向いていない。こういうものには大きなリターンが見込めないため。そこに投資家が投資をしても、確実に一定の配当はくれるだろうけども、銀行預金と良い勝負ということにしかならない。

しかも、潰れると何も戻ってこないので、一般の消費者が投資するのはオススメできない。特定の会社だけに自分の財産をつぎ込んで、その会社が潰れたら完全に紙くずになるので。一般の投資家が特定の会社だけに多額の投資をするのはあぶない。

機関投資家がたくさんポートフォリオを組む中の1つとして入れるとか、ベンチャーキャピタルのように高いリターンを狙うところが投資するためにあるもの。

「投資」は、新しい企業を立ち上げる時に向いている。

たとえば、グーグルが1998年に創業した時には、全く収入がなかった。収入のあてがなかった。超ハイリスクの企業。しかし、100万ドルくらい出資してくれる人がいた。

Facebookはマーク・ザッカーバーグというハーバード大学の学生が20歳の時に、寮の自分の部屋の自分のパソコンをサーバーにして立ち上げたサイト。ガレージカンパニーというよりも、寮で立ち上げた究極のベンチャー。そんな、しょぼい会社でも、最初に50万ドル出資してくれる人がいた。Facebookの時価総額がだいたい150億ドルと言われているので、3万倍になった。

ベンチャー投資というのは儲かったら何百倍とか何千倍となるが、実は大部分は潰れてしまう。

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シリコンバレーで言われているのは10社1組で考える。10社のうち9社はだいたい潰れるか赤字になってしまうが、1社は儲かってあとの9社の分だけカバーできればいい。

実際のところ、本当に潰れてしまう会社はそれほど多くない。統計によると、ITバブルの後に潰れた会社の比率を調べてみると半分くらいの会社が潰れている。あと半分は生きているが、それほど儲かってもいない。

投資としては、単に生きているという会社に投資してもほとんど意味がない。

うんと儲かる会社を当てないといけないので、一種のギャンブルみたいなもの。

「融資」と「投資」というのは、広い意味で「investiment」なんだけど、全く違うお金の出し方。イノベーションに向いているのは明らかに「投資」。

投資をいかに増やすか、あるいは、投資をしてもらう側にとっては、いかに投資家にお金を出してもらうかが大事なこととなる。

この場合に、すべてを投資や融資につぎ込むとか、すべてを投資でまかなうという例はあることはあるが特異な例。

普通のある程度以上の企業では両方持っていることが多い。つまり、融資と投資両方で資産を形成している。

貸す方から見ると、投資と融資両方の形でやることが普通は多いが、ベンチャーキャピタルは基本的には投資しかしない。融資はしない。

しかし、ベンチャーキャピタルみたいなところでも、グーグルやYouTubeのようなハイリスクの会社ばかりに投資していてはお金を回収できないので、中には堅実なものも入れなくてはいけない。

「ポートフォリオ」という概念。ローリスク・ローリターンの会社とハイリスク・ハイリターンの会社を組み合わせる。リスクを分散する。複数の資産をポートフォリオとして組んで、その中で最悪の場合でもある一定のリターンは取れるようにしておきながら、うまくいけばドーンと儲かるようにポートフォリオを組む。

ベンチャー企業の側から見ると、お金を借りる場合に、たとえば全くゼロから企業を起こすような場合に、レストランや洗濯屋だったら土地さえあれば銀行はお金を貸してくれる。担保があれば貸してくれる。こういう場合は「融資」で借りるのが賢い。

他方、ITベンチャーで「SNSをやります」と言った場合、「広告収入は本当に取れるのか?」「何百万人お客さんがとれるのか?」というのはやってみないと分からない。「やってみないと分からない」という場合に、お金を貸してくれる銀行はなかなかいない。土地などの担保をもってれば銀行は融資はしてくれるが。

実際のいわゆるベンチャーや自営業は、日本でもアメリカでも自己資金でやるケースが多い。自己資金というのは自己責任だから、会社がパァーになってもあきらめがつくし、ほんとの最初のスタートする時点で1000万円とかあれば、大損しなければ会社は回る。

1000〜2000万円の自己資金さえあれば、会社を起こすことは不可能ではない。

だから、日本でもアメリカでもベンチャーは自己資本を持っているケースが多い。

Facebookのように一文も持っていない学生が寮でやるというのは極端な例。

実は、アメリカでも日本でも、会社を辞めた40代くらいのサラリーマンが、それまでに数千万円なり1億円なり貯めたお金を元手にやることが多い。後の付加的な部分を融資でまかなうのか、投資でまかなうのかというところで、ベンチャーのやり方が違ってくる。

第2節 ベンチャー・キャピタル

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ベンチャー・キャピタルはイノベーションをする場合に、ファイナンスの主体として非常に重要な役割を果たす。

実は、ベンチャー・キャピタルはファイナンスの機関としては非常にマイナーな存在。

たとえば、日本で言うと、だいたい個人金融資産が1500兆円くらいあると言われているが、そのうち、ベンチャー・キャピタルにいっている資産が約1兆円くらい。つまり、1500分の1くらいしかベンチャー・キャピタルが持っているお金はない。

アメリカの場合は比率はもう少し高い。1割くらい。広い意味での投資銀行になるともう少しある。

実は、ベンチャー・キャピタルという形は非常に特殊なファイナンスの仕組み。

シリコンバレーのベンチャー・キャピタルは、あまり大きな資金を調達できない中小企業のための特殊な投資会社。会社の規模もあまり大きくない。中小企業向け金融のちょっと変わった形でシリコンバレー特有の形だった。

ベンチャー・キャピタルは、もともとは1970年代からあるものだが、それほど優れた形だと思われていたわけではなく、どちらかといえば、特殊な金融の仕組みという理解が一般的だった。

ところが、ITバブルの頃にベンチャー・キャピタルによってファイナンスした会社が急成長したということで、日本でもベンチャー・キャピタルを作らなくてはいけないという話が出てきて、世界各国でベンチャー・キャピタルはあるが、必ずしも上手くいっていない。

なぜかというと、ベンチャー・キャピタルという仕組みはアメリカのファイナンスの仕組みに依存している。特に重要なことは、アメリカは良くも悪くも貧富の差が大きな国。お金を持っている人はめちゃくちゃ持っている。

ビル・ゲイツの資産は日本円で5兆円くらい。これはどうやったって使い切れないお金で95%を慈善事業に寄付しちゃった。

アメリカは、持っている人は一生かかっても使い切れないようなお金を持っているから、個人投資家の層が厚い。

ウォーレン・バフェットやジョージ・ソロスといった何兆円も持っている資産家は、全財産を銀行預金に預けるということはあり得ない。

1兆円のお金で1%違えば100億円の差が出るんだから、今の日本のように0.何パーセントの銀行預金に何兆円という資産を預ける人はいない。

つまり、大きな資産家ほどポートフォリオの中で、銀行預金のようなローリスク・ローリターンの資産での運用ももちろんあるだろうが、かなりの部分はハイリスク・ハイリターンの運用をしないとファンド自体としてパフォーマンスは上がらない。

アメリカでは大学基金や年金基金をファンドで運用しているが、年率2割くらいのリターンをとる。ハーバード大学の基金は高い時は5割くらいのリターンをとる。

個人投資家に加え、年金基金や大学とかのファンドを運用する人も多い。ファンドを運用する人々は自分たちでベンチャー企業を探してきて運用するというわけにもいかないので、自分たちのお金を一番高いパフォーマンスで運用してくれる投資の仲介機関を見つけて、そこに自分たちのお金を一定期間預けて、回収するという形をとる。

よく、ベンチャー・キャピタル自身が資本家だと思っている人がいるが、ベンチャー・キャピタルという資本家はいない。「ベンチャー・キャピタリスト」というのはいない。ベンチャー・キャピタルというのは、超お金持ちの人の資産を運用する人たち。

要するに、他人の金で博打を打つ仕事。自己資金じゃないから、パァーになっても自分の生活に困るわけではないけど、その代わり、ある一定のパフォーマンスを出さないと、お客さんは投資をしてくれない。

また、お客さんはお金を必ず回収する。ベンチャー・キャピタルから見ると、お金はかなり長い期間寝かせておかなければならないことがあるが、お客さんから見ると、ベンチャー・キャピタルに貸したお金は3年とか5年で回収する。

日本の産業金融でいうと、昔の興銀(日本興業銀行、今のみずほ)のように、20〜30年貸したままにするという形態がよくあるが、普通、資本というと貸したままにすることが多いが、ベンチャー・キャピタルの特徴は貸したままにはしない。たいてい、「exit」といって3〜5年で回収する。

そこがベンチャー・キャピタルの普通の投資家と違うところ。それはなぜかというと、自己資金ではないから。

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融資と投資の対比。

銀行の場合には融資する場合に審査があって、ちゃんと利子を返して、何年かたったら元本を返してくれるという事業の収益性のめどがあるのか、それから、最悪の場合の担保というのはあるのかと。

悪い習慣だと言われているが、経営者が個人補償をすることが多い。自分の家・屋敷を担保にして、会社が潰れたら自分の財産も差し出す。

もっと悪いのは、連帯保証人。会社が潰れるとその債務を連帯保証人が自分の全財産全部を差し出して払わなければならないというケースがある。

連帯保証人というのは怖い制度で、会社が破産すると連帯保証人は全財産を取られるのでホームレスになる人もいる。

日本の融資の場合には、事業を興す人が命がけでやらなければならないことがある。へたすると、親戚まで巻き込んで大変なことになる。

日本のベンチャーは失敗すると、へたすると首をくくらなければならない。融資でお金を借りると、命がけになってしまう危険が高い。

銀行や金融機関からお金を借りて、リスクの高い事業をやると、最悪の場合、自分の全財産を失うとか親戚まで巻き込むということが起こるので、融資というのはベンチャーとかイノベーションをやる場合にはリスクがあまりにも高すぎる。

逆に言うと、ベンチャー・キャピタルからお金を借りるのはミドルリスク。

YouTubeは元々、サンノゼのピザ屋の2階で趣味で始めたような会社。最初は全く収入なし。今でもあまりないが。収入の見込みなしで趣味で始めた。

YouTubeはセコイアが「そのうちなんとかなるだろう」というノリで数百万ドルくらい貸した。YouTubeの場合にはアクセスがすごいので、サーバーを何台もたくさん立てなければならない(サーバーコストがかかる)。

YouTubeみたいな商売はシリコンバレーでは山ほどあるが、YouTubeのように上手くいくのはもの凄くラッキー。たいていの場合は、1〜2年たたないうちにダメになる。

仮にダメになって、YouTubeが会社として立ちゆかなくなって解散するとしても、YouTubeの創業者は「すみませんでした。ちゃんとお金を返せなかったので、これで会社を畳みます。」と言って終わり。ベンチャー・キャピタルには「すみません」と言えばよい。気楽。

日本の銀行からお金を借りると「すみません」では済まない。会社を潰したら、経営者の個人保証だったら「全財産出せ!」と、へたしたら連帯保証人にも「全財産出せ!」となる。

実は日本の融資というのは究極のハイリスク。それに比べると、ベンチャー・キャピタル型の失敗しても「すみません」で済むような運用の方が会社を起こす人のリスクは低い。

だから、日本でもそういう仕組みを作らなければならないのだが、非常に色々な問題があって育たない。

よくある誤解で、ベンチャー・キャピタルはただお金を貸しただけで、あとはもう好きなようにやらせていると思っている人が多いようだが、そんなことはない。

ベンチャー・キャピタルは日本のメインバンクにかなり近いと言われている。

逆に日本のメインバンク以外の銀行は、お金を貸すだけで資金繰りしか見ていない。経営の内容はメインバンクが見て、あとの銀行はほとんど見てないということが多い。

ベンチャー・キャピタルは経営内容をしっかりと見る。Hands-Onアプローチ。

YouTubeやグーグルの学生みたいに、経営のノウハウなんて持たないで始める人が多いので、コンテンツや技術については詳しいけれど、どうやって資金を上手く運用していくかという経営のノウハウを持っていないことが多い。

ベンチャー・キャピタルからベンチャー企業にCEO(最高経営責任者)とかCFO(最高財務責任者)を派遣するということが多い。

むしろ、ベンチャー・キャピタル自身が経営をやることが多い。

だから、「40マイル以内の会社にしか投資しない」とよく言う。つまり、車ですぐに行ける距離の会社にしか投資しない。

何か問題があったらすぐにその会社に行って、ベンチャー・キャピタルが経営者としてその会社の問題を解決できるような会社でないと、お金を貸さない。

つまり、日本の銀行より投資先との関係は強いと言える。

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ベンチャー・キャピタルは日本の産業金融のようにずっと貸したままということはまずない。

最大5年でexit。お金を回収する。なぜなら、お金をベンチャー・キャピタルに貸してくれる投資家が基本的には何年かでお金を回収することになっているから。だから、ベンチャー・キャピタルもお金を回収しなきゃならない。

これが日本の銀行との最大の違い。出口(exit)までを考えて投資する。

exitのやり方は2つあって、1つ目のexitのやり方はIPO(上場・株式公開)。シリコンバレーで一番最初にITバブルのきっかけになったのは1995年のネットスケープのIPOだと言われている。この時はネットスケープは全く収入ゼロだったにも関わらず、ナスダックで市場最高値に近い値段が付いた。

ネットスケープを含めAmazonやYahoo!といったITバブル第1期の会社はIPOで非常に高い株価で資金を得て、それで一本立ちする。そこから先は、基本的にはベンチャー・キャピタルの資金は入っていない。

2つ目のexitのやり方は、買収。

買収するかどうか分からないが、Facebookにマイクロソフトが2億4000万ドルを出資した(2007年10月24日)。

MySpaceはニューズ・コーポレーションが買収したし、YouTubeはグーグルが買収した。

買収でexitするというのが最近は多い。シリコンバレーでは2007年には大きなIPOが1件もなかったと言われている。

なぜかというと、1つの原因はアメリカでSOX法といわれる上場会社をもの凄く極端に規制する法律ができてしまって、株式を公開すると日本円でも何億円というSOX法のコストがかかりすぎるので、上場会社にしたくないということがある。

もう1つは、MySpaceやYouTubeやFacebookといった会社は、基本的に赤字のまま買収されている。なぜ、赤字の会社が買収されるのか?

その理由は、たとえばYouTubeの場合には、YouTube自体は赤字だけどYouTubeに来るトラフィックをグーグルが集めることができれば、グーグルはAdsenseという広告で年間1兆円くらい儲けている。Adsenseの儲けのためにはアクセス数を増やすことが大事。アクセスさえ増やしてくれれば、YouTube単体で黒字になる必要はない。

シリコンバレーでは、アクセス数を集める企業とそれをお金にする企業が分業されるようになってきている。

Facebookみたいに1億3000万人もユニークユーザーがいる企業は、それだけで150億ドルもの価値があるとみられる。

Googleの例
1998:110万ドル(Andy Bechtolsheim)ガレージカンパニー時代
1999:2500万ドル(KPCB[通称クライナーパーキンス]、Sequoia[セコイア])この2社が全く収入のない企業に25億円も出資した。
2004:IPO(230億ドル)
2008:時価総額1500億ドル

アメリカのベンチャー・キャピタルの規模は、2000年にITバブルが崩壊したが、投資額自体は2001年がピークで全米で406億ドル。
その後は、2002年にグッと下がって、その後徐々に増えてきている。
2001年:406億ドル
2002年:219億ドル
2003年:197億ドル
2004年:225億ドル
2005年:230億ドル
2006年:256億ドル
2007年:294億ドル

昔は先を争って訳の分からない企業に投資するというパターンが多く、ベンチャー・キャピタルも怪しげなのがたくさんいたらしいが、最近はベンチャー・キャピタルの数自体が淘汰されてきて、少数のベンチャー・キャピタルにお金が集中しているという傾向がみられる。

ベンチャー・キャピタルの投資額は一時期は半減したものの、最近ではそこそこの規模のお金がベンチャー企業に回っている。

これが、アメリカの新しい企業の活力を支えている。

第3節 日本の中小企業融資

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日本にもベンチャー・キャピタルはあるが、1500兆円のうちベンチャー・キャピタルに回るのは1兆円という状態なので、あとの99.9%くらいは融資で回っていることが多い。

ベンチャー企業を起こす人は、たいていは自己資金がいくらかある。そこに信用金庫や銀行からいくらか借りる。お店の場合には、お店の土地を担保にするというケースが多い。

ごく普通のビジネスだと、土地の担保さえあればそれほど変なことにはならないが、かつてのバブルの時期のように、土地の値段が上がるのを当て込んで投機的なビジネスをやろうとすると、土地の値段がどーんと下がってしまってお金が返せなくなると、いわゆる不良債権ということになる。

「融資」というやり方でお金を出すことの問題点は、たとえば、ある企業に土地を担保にして100億円貸したとする。ところが、土地の値段が暴落して担保にとっていた土地の価値が50億円しかなくなってしまった。潰れた会社の担保を売却して融資を回収しようとしても50億円しか返ってこない。残り50億円は銀行が引き当てて、損失として計上することになる。

これが不良債権。90年代の日本経済をめちゃくちゃにした原因。

不良債権は投資案件では基本的に起こらない。なぜなら、投資は失敗したら自己責任で後を引かないから。投資した人は大損するが、お金を借りた方は「すみません」と言えば済む。

ところが、融資の場合は「すみません」では済まない。貸した方の銀行に大幅な損失が出るので、今度は貸した方も困る。

ずーと貸しておけば、会社を生きても死んでもいない状態にしておけば、50億円の損は隠せる。

融資の案件は現場の営業がやっているので担当者にしてみれば、融資を回収して自分の担当した案件が50億円の損を出したとなれば、その人の出世はなくなり、会社の中で立場がやばくなる。

会社全体としても損失の額が大きいと困る。

90年代に日本のほとんどの銀行は一時期、債務超過にあったと言われている。

つまり、銀行がお金を貸している先の企業が債務超過になり、貸している銀行自体も債務超過になっているという状態が10年くらい続いていた。

普通は債務超過になった企業は倒産させて、担保をすべて回収して、精算しちゃうのだが、精算すると銀行が潰れてしまう。

銀行が潰れると、大変な社会的な影響を及ぼす。

なぜなら、銀行は融資をやっている一方で預金者のお金をたくさん預かっているので、銀行が潰れるということになると「取り付け騒ぎ」が起こる。預金者が銀行にお金を取り戻しに来るということが起こる。

すると、銀行というのは、すべての預金者がいっぺんにお金を取り戻しに来ると、絶対に返せない。銀行は預金者から借りたお金を融資して仕事しているから。預金者から借りたお金を100%寝かしていたら仕事にならないから。預金者がすべて預金を回収しに来たら、銀行は絶対に倒産する。

従って、取り付け騒ぎが起こると、銀行は必ず潰れる。

銀行が破たんするという自体は非常に恐いこと。銀行にとっても怖いし、日本経済全体に連鎖的に影響が及ぶ可能性もある。

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長銀(今の新生銀行)がEIEというおかしな不動産ばかり買っている不動産ブローカーにピーク時で何千億を貸していた。

仮に1千億円貸していたとして、それがバブルが崩壊して500億円くらいになって、残り500億円穴が空いたとする。

この場合、普通に会計処理をすると、長銀の資産は500億円の穴が空いて、へたをすると長銀の自己資本を浸食しちゃって、長銀自体が債務超過する。

銀行が債務超過すると、取り付け騒ぎの原因になるから非常に恐い。だから、銀行は不良債権を隠そうとする。

長銀はEIEに追い貸しをして、せめて金利だけでも取るようにする。金利が返ってきていると、見た目にはその会社は生きているように見えるので、その会社に対する債券は健全な債券だという嘘の会計報告をして、ずーと生き長らえさせてきた。

そうこうしている間に、どんどんどんどん力が下がっちゃって、最初は500億円の損で済んでいたものが700億、800億となってしまい、最後は長銀自体の経営が破たんした。

長銀、日債銀、拓銀など完全に破たん処理された銀行は、大手の銀行では少ないが、一時期は日本の大手銀行はほとんど同じような状態にあった。

融資という形でやると、大きなリスクが処理しにくい。

それに対し、ベンチャー・キャピタルの場合は、損して得しても自己責任。事後処理が簡単。

ただし、日本の場合にはベンチャー・キャピタルの資金が1兆円程度しかない。(個人金融資産の1/1500)

といっても、1兆円の金を運用するほどのちゃんとしたベンチャー企業は日本にはない。

レストランや洗濯屋はいくらでもあるのだが、それらはベンチャー・キャピタルの投資対象にならない。最低でも3割くらいのリターンがとれないとポートフォリオが組めない。ファンドが組めない。ファンドはお客さんに年率2割程度を返さなきゃいけない。

そもそもベンチャー・キャピタルは日本では少ないんだけど、その少ないベンチャー・キャピタルでもお金を持てあますほど、ハイリスク・ハイリターンな企業は日本にはほとんどない。

その理由は難しいが、1つには、昔から銀行からお金を借りて堅実にやるとか、系列企業で親会社に資金の面倒を見てもらうとか、そういうことに日本の企業は慣れてきたので、自己責任で資金を調達して、得しても損しても自分の責任という事業のやり方に慣れていない。

もう1つは、いわゆる中小企業融資の補助。新銀行東京なんて良い例。中小企業が資金調達できないから、銀行が貸してあげましょうという発想で、無担保・無保証・金利10%で貸してしまった。

貸した会社の半分が潰れれば、その金利はほとんど回収できなくなってしまう。半分の会社が潰れる可能性がある時は、2割とか3割の金利を取っておかないと、トータルとしての融資を回収できない。

金利10%で貸したら、半分潰れれば5%で資金コストをほぼ割っちゃう。

中小企業金融公庫や国民生活金融公庫といった政府系の金融機関は低利融資をする。それをベンチャー企業の育成と言っている。

でも、そういうやり方ではベンチャー企業は絶対に育成できない。融資という形を取る限りは、結局、融資は返さなくてはならないので、ある程度の固いローリスク・ローリターンのビジネスしかやれっこない。

エクイティ型のビジネスで資金を調達しない限り、冒険的な仕事はできない。

行政の人は融資と投資の違いをきちんと理解していない。低利や無担保で融資すればベンチャー企業が育つと思っている人が多い。

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ベンチャーの事業をやる側の問題として、日本ではリスクが取りにくい。

過剰規制 → 官製不況。

◎J-SOX法(金融取引法)

企業の内部の金銭のやり取りや内部統制について全部文書化するという法律。

今までの会計原則では内部統制というのは、経営者の責任において内部統制をする。会計士や監査法人は内部統制が適正に行われているかをチェックするという分業だったが、J-SOX法は内部統制もすべて文章に残して外部から見れるようにする。

ところが、企業の内部で行われている金銭的にやり取りはものすごく膨大。

たとえば、企業の中で工場から本社に製品を納入するという場合、普通は単に物を運んで終わりだが、それも取り引きとみなすと、それを納入する製品の価格はいくらなんだとか、本社が資産としていくら持ったことにするとか、全部の価格を評価しなくてはいけない。それをまた文書に残さなくてはいけない。そのトランザクションを全部、膨大なファイルとして残さなくてはならない。

このコストだけで、普通のちょっとした企業だけで年間数億円かかる。大企業だと数十億円かかる。このコストだけで皆、参ってしまうくらい企業の経営を圧迫している。

また、文書化しなくてはならないので、良くも悪くもいい加減なビジネスができなくなってしまう。

J-SOX法がある限りは、IPOなんてとてもじゃないけどできない。中小企業では、とてもじゃないけど対応できない。

◎個人情報保護法

特にITベンチャーの場合には問題。5000件以上の個人情報を扱う事業者は全て対象になる。

たとえば、グーグルで「池田信夫」で検索すると130万件出てくる。その130万件のうち何軒かは、パソコンの中にキャッシュされているので、5000人くらいの個人情報なんて誰でもパソコンの中に持っている。

ほとんど全ての人が個人情報保護法の規制対象になる。

個人情報保護法を厳密に言及すると、その本人の了解なしには、その個人の名前をコピーすることも第三者に送ることもできない。だから、電子メールでその人の情報を送ることもできない。あまりにも規制が厳しすぎて、パソコンを使っている日本国民のほぼ全員が個人情報保護法に違反してしまっているので、全員交通違反という状態で誰も取り締まれないという状態になっている。

◎著作権法

今問題になっているのは、知的財産戦略本部が2009年の国会に、著作権法で検索エンジンを合法化しようという方針を出した。

逆にいうと、今は検索エンジンは違法だということになる。なぜかというと、著作権法では、情報を複製するというのは著作者の了解なしにはできない。ところが、グーグルでもヤフーでも「キャッシュ」と出てくる。キャッシュは検索エンジンのサーバにコピーしている。著作者の了解を得ないで複製している。無断複製。厳密に言うと著作権法違反。

だから、検索エンジンのサーバは基本的に全部アメリカにあることになっている。日本にはヤフーもグーグルも他の検索エンジンもすべて国内にないと建前になっている。ほんというと、実は、国内にあるサーバもある。あるけど、さすがにいくら何でも検索エンジンを著作権法違反だと警察が逮捕することはできっこないから、法律が実態に合ってない。

◎貸金業法

サラ金の規制。2009年に施行。事実上、上限金利は20%になったので、今はどこの消費者金融業者も20%以上の金利で貸さない。かつては、29%の上限が20%に下がったので、個人も資金調達ができなくなってしまったし、業者もハイリスクのビジネスができなくなってしまう。

この手の規制は厳しくなる一方。

たとえば、ある企業のサイトに検索機能を付けようとしたら、法務部が「検索エンジンは著作権法違反だからダメです」と言う。社長命令で「やれ」と言っても、「法務部としては違法行為を認めるわけにはいきません」と言われたら、社長も引き下がらずを得ない。

このように過剰な規制が強まってくると、どんどんイノベーションがやりにくくなる。

たとえば、YouTubeなんて日本で絶対にできない。最初から著作権法違反のリスクを抱えたままスタートしている。

セコイアはYouTubeが何億ドルと賠償されるリスクも折り込んで、いくつかたくさん貸しているうちに1つとしてやっている。

日本みたいに法律が厳しい上に、融資する側もそういったリスクに対して過敏になっていて、おまけに事業主体自身もそういったリスクは取りたがらないという3つの要因が重なっているものだから、日本ではイノベーションは起こりにくい。

「第7章 知識のマネジメント」に続く

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