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池田信夫「イノベーションの経済学」第7章 知識のマネジメント

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SBI大学院大学がYouTubeにアップロードした池田信夫さんのイノベーションの経済学「第1章 イノベーションとは何か」と「第2章 イノベーションの思想史」と「第3章 経済成長と生産性」と「第4章 起業家精神」と「第5章 技術革新」と「第6章 ファイナンス」の続きです。

第7章は「知識のマネジメント」というテーマです。

これで最後ですね。けっこう長かったです。全部で7時間くらいあったと思います。

でも、すべての授業を受講した今は、すごく自分がパワーアップした感覚を覚えます。

そして、あらためて学ぶことの楽しさを感じました。

今後は、この講座で紹介された本を読んでみたいと思います。読んだことがある本が1冊もなかったので。。

そして、これほど内容の濃い講義動画を無料で公開してくれたSBI大学院大学池田信夫さんに感謝ですね。

イノベーションの経済学

第7章 知識のマネジメント

第1節 知的財産権

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ここからは、イノベーションにとって一番大事な知識、情報をどのように運用・管理していくか。

知的財産権という概念が財産権として認められているのかというと、日本国憲法では言葉としては存在してないこともないが、憲法29条で認められている財産権とは違う。

知的財産権という言葉自体も、昔からあった概念ではなくて、19世紀に一部で使われていたと言われているが(privilege → property)、正式に使われるようになったは1967年にWIPO(ワイポ / 世界知的所有権機構)という国際機関ができた時に「Intellectual Property」という名前で「特許」「著作権」「商標権・意匠権」などを一括する言葉を使ったのが事実上最初。

知的財産権という言葉を使うこと自体に、ある種の問題があると考える。

財産というのは、たとえばボールペンのように一定の物であって、自分が使っている時には他の人は使うことはできない。それから、一定の価格で他の人に譲り渡したら、自分はそのボールペンの所有権を持っていない。このように、移転可能なものを「Property」と言う。

あるいは、土地のように移転可能ではなくても、どこの区画までが自分の「Property」であるのか。「Property」という言葉は「土地」という意味も持つ。元々は「Property」という概念は土地の所有権からきた言葉。「この土地は自分の土地である。だから、そこでできた作物は自分の作物である。」という風に区画がはっきりしている。

ところが、情報とか知識というものは区画がはっきりしていない。

たとえば、この講義の映像をYouTubeにアップロードするとする。それをダウンロードした世界中の人のところに池田信夫さんの言葉が伝わる。

YouTubeで動画を見た人は、自分のパソコンのキャッシュに動画を入れる。

それは、ボールペンを売るという行為とは全く違う。池田信夫さんの言葉は池田信夫さんの財産だとすると、池田信夫さんの財産はYouTubeを見た人に無料で譲り渡したのか、本当はお金をもらわなきゃならないのかと考えると、境界が明らかではない。

池田信夫さんの言葉は、池田信夫さんのものなのか、聞いた人のものなのか、コピーした人のものなのか、SBI大学院大学のものなのかよく分からない。

つまり、「Property」というある一定の仕切りの中はAさんのもので、こっちはBさんのものという仕切りやすい概念とは違う。

土地は「Property」という概念がはっきりしている。ボールペンや時計といった公共生産物は財産権という概念に馴染みやすい。時計を不特定多数の人に複製して渡すということはできない。時計はどうやっても1つ。

仮に時計を1000円で売るとしても、買った人は1000円を渡す代わりに時計の財産権を移転される。取引が明確で、その時計が誰が持っているかという財産とその持ち主が1対1で対応する。こういうものは取引しやすい。つまり、売買しても、誰かのものになった時には絶対に他の人のものにはならない。時計を買った人が、その後それをどう処分しようが自由。

ところが、情報というものは、容易に譲渡可能だという財産権本来の特徴を持っていない。

たとえば、「特許」なら有名な事件として、「Amazonの1クリック特許」というものがあった。Amazonのサイトでオーダーをクリックすると、普通はカートが出てきて色々な項目を満たす必要があるが、それをしないで、1クリックするだけで全部注文手続きまでするというソフトウェアにAmazonが特許を取ってしまった。


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ところが、そんなものはどこのサイトにもあったもので、Amazonが始めてやったわけでもなかった。

しかし、特許として認められてしまった。

すると、他のサイトは今まで同じようなことをやっていたのに、Amazonが特許というものをとった瞬間から、今までやっていたことができなくなる。

これは、時計を誰かに売るという行為とは違うもの。

たとえば、「Barnes & Noble」(アメリカ最大の本屋)が、1クリックオーダーをすれまでにもずっとやっていたのにも関わらず、Amazonが特許を取った日から、それをなぜか禁止する権利をAmazonは持ってしまう。

他人の表現行為なり知的な活動を禁止する権利を持ってしまう。

財産権はもちろん、自分の持っている時計を他人が勝手に処分することを禁止することはできる。「僕がこの時計を持っているから、他の人は勝手にこの時計を売ったらダメだよ」という分かりやすい権利。

たとえば、時計をフリーマーケットで売って、誰か知らない人が買ったとする。その後、時計を買った人のことを追跡して、その人が他の人にその時計を売ろうとしたら、「俺の時計を勝手に売るな」とは言えない。言ったとした頭がおかしいと思われる。

ところが、特許とか著作権はそういう権利を持ってしまう。

著作権の場合には、たとえば、ある電子ファイルを書いた場合に、それを誰かがコピーして別のサイトに掲示すると、厳密には著作権法違反になる。

実際に訴訟になった事件としては、テレビの映像をYouTubeにアップして、そのYouTubeの映像を他の人がダウンロードして使ったりすると、そのテレビ局の持っている著作権を侵害したということになり、YouTubeは数億円の訴訟を起こされている。

そもそも財産権と呼ぶようなものじゃないものと財産権と呼んでいることが間違いのもと。

このことは昔から議論されていて、「emacs」というソフトウェアを開発したリチャード・ストールマンが言うには、「Intellectual Propertyという言葉を認めてはならない。そんな概念は存在しないんだ」と。

特許とか著作権とか個別の権利が法的に存在することは確かだが、それを全部合わせて「Intellectual Property」と呼んで、一般的な財産権とごちゃごちゃにすることから混乱が発生する。

時計やボールペンを持っているとか他人に売り渡すといった普通のマーケットで人々がやっている当たり前の仕事と、情報を伝達するという仕事は全く違うこと。それを「Property」という言葉で一緒にすることによって、検索エンジンが違法になるといったおかしなことがたくさん起こっている。

従って、知的財産とか知的財産権という言葉を使うのを辞めた方がいいという提案をする経済学者がけっこういる。

特許をどれくらい強く認めるかという問題もある。

アメリカは1980年代当たりから、「プロパテント」つまり特許権を強く認めるという方針を政府として打ち出した。

アメリカの開発した技術を日本やアジアの国々が勝手に使っている、自分たちの開発コストにただ乗りしていると、アメリカの企業は政府に陳情して、アメリカ政府は特許の侵害を非常に厳しく審査する、しかも特許の範囲を広げるという方針を決めた。

特に問題になったのは「ソフトウェア特許」とAmazonの1クリック特許のような「ビジネス方法特許」。

ソフトウェア特許とは、ソフトウェアとは本来、特許権の対象にはされていなかった。

たとえば、画像を表示するというソフトウェアがあったとする。このソフトウェアは、コンピューター言語で書かれているが、元をたどればアルゴリズム。つまり、論理。

論理というのは「1+1=2」という自明の理なので、特許の対象にはならない。ピタゴラスの定理が特許になったら皆困る。

特許というのは、独自に誰も知らないことを開発するものが。数学的な定理のようなものは特許の対象にならない。

従って、ソフトウェアは数学的な演算をやっているのと同じなので、アルゴリズムは特許の対象にならないというのが従来までの考え方だった。

1980年代からアメリカはソフトウェアにも特許を認めるということを始めた。これは、色々な問題を起こした。


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たとえば、AdobeのAcrobatを起動すると、「このソフトウェアはアメリカの次の特許で保護されている」とバーと出てくるが、Acrobat1つにも、何十という特許がかかっている。

ところが、ソフトウェアの特許とはソフトウェアのどの部分が引っかかるのかということが、必ずしも明確ではない。

昔でいえば、蒸気機関を発明したというのは明らかなんだけれども、ソフトウェアは色々な技能がある。

たとえば、昔問題になったのように、AppleのMacintoshのアイコンをWindowsが採用するという時に、意匠登録に引っかかるという訴訟をAppleが起こしてマイクロソフトがライセンス料を支払っているが、どこまでが侵害かソフトウェアはよく分からない。

先日、ジャストシステムが使っているアイコンが松下電器の特許を侵害しているという判決が出たが、アイコンの形まで特許の侵害になるというのは非常に困ったもの。

もっと困るのが、アマゾンの1クリック特許のような「ビジネス方法特許」。

1クリックで買い物ができるというのは、ただの思いつき。こんなものまで特許になるなら、世の中のあらゆるものまで特許の対象になりかねない。

もっと怖いのは、つまらないことでも、他の企業に特許を取られたら使えなくなるから、やむなく特許を取らざるを得ないということが起こること。

現実に、特許を申請している人の半分以上は防御的な特許と言われている。つまり、自分が何かを発明してライセンス料を取ろうという気はないんだけど、他の人が特許をとったら大変だし、「ビジネス方法特許」も何が特許になるか分からない。

たとえば、SBI大学院大学も「Eーラーニングで大学院をやります」という特許だって申請できるかもしれない。何が何だか分からない状況になっている。

ここまで特許の範囲を広げていくと、ビジネスをやる場合にあらゆるものが特許に引っかかってしまう。

アメリカでは特許や知的財産を専門に処理する裁判所ができた。日本でも知財高裁が東京高裁の中にできた。

では、それで、イノベーションが本当に増えたのか?

企業は本当に大事な情報は、実は特許を申請しない。なぜなら、特許を申請すると特許として公開されてしまうので、他の人にバレてしまう。

本当に大事な人に知られては困る技術は、そもそも企業秘密として持っておく。

しかし、リバースエンジニアリングのような方法を使って製品を見ていけば、どういう技術が使われているのか、ある程度は分かってくる。

だから、企業秘密にしていても、何年か経てば他の企業が似たような機能をマネすることができる。

しかし、2〜3年のリードタイムがあれば、新しい技術の元はとれる。

実は、ほとんどの企業は、一番大事な技術の特許を申請しない。あるいは、他の企業に取られそうな特許は出すということになっている。

特許の機能は、本来のアイデアを保護するという役割を果たしてなくて、逆に他人のアイデアの利用を妨害するという機能の方が強くなってきてしまった。

「特許の藪(patent thicket)」という言葉を使うことがあるが、1つのものにはたくさんの特許が必要なので、1人でも「私の特許を使っては行けない」と言い始めると、その技術は使えなくなる。

つまり、全員が拒否権を持つ。これを「anti-commons」と呼んだ有名な論文がある。

たとえば、100人の権利者がいて、そのうちの1人でも拒否したら、全部パァーになるという状態が起きている。

これをなんとかするために、「パテント・プール(patent pool)」みたいなものを作って、「特許を皆で共同利用しましょう」とか、お互いにクロスライセンスをして「お互い文句を言わないようにしましょう」といったように企業同士が色々とやる。

そういうことをすると、企業同士の寡占を促進するという競争上の問題があるということで、公正取引委員会が問題視している。

さすがに、特許の弊害が目立ってきたので、ヨーロッパではソフトウェア特許を認めるべきだという欧州指令を欧州議会で否決するということが2〜3年前にあった。

マイクロソフトやシスコといった会社が「ソフトウェア特許がこれ以上厳しくなるとビジネスの邪魔になるからやめてくれ」と言い始めているくらい、世の中の流れは変わってきている。


第2節 著作権

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いわゆる知的財産権の中で、みなさんに最も身近なのは著作権。

著作権というものは、まったく届け出をしなくても発生するので、紙に落書きしただけでもそれに一定の創作性があれば、著作とみなされる。それだけ、及ぼす影響も特許よりずっと大きい。

著作権は財産権というよりは、複製権、あるいは複製禁止権と考えた方がいい。

たとえば、この講義では紙に書いたものを渡す必要はなく、ただしゃべっているだけで情報は伝わるので、財産権を移転しているのではなく、情報を伝えているだけ。

ただし、この講義を丸ごとコピーして誰かがDVDに焼いて売ったりすると、SBI大学院大学の著作権を侵害しているということになり差し止めを受ける。つまり、著作権とは差し止め権。基本的には情報の流通を阻害する権利。

つまり、財産権というのは、その物を所有している人が利用したり食べちゃったり消費したりする権利だが、著作権とは他人が使うことを禁止する権利。財産権とは全く違う種類の権利だと考えた方がいい。

特に、デジタル情報の場合に困るのが、複製禁止権というものが何も言わなくても発生する。池田信夫さんが今喋っているこの瞬間にありとあらゆるところに複製されていく。

つまり、情報を伝達するとか利用するということと、それを複製するということは不可分になる。

それなのに、著作権法上は複製についてはすべて1つ1つ許諾が必要という建て前になっている。

世の中でデジタル情報があふれて、グーグルで検索すると何十億件と出てくる時代に、それらを全て許諾するとか禁止するということは無理だと言わざるを得ない。

著作権ができたのは18世紀の最初だと言われているので300年くらい前。その頃の著作権というのはもの凄く簡単だった。

18世紀のイギリスでは出版業者というのはギルド(中世ヨーロッパの都市で発達した独占的・排他的同業者組合)があって、限られた数十社の出版業者が自分たちの本を出す。

コピーというのは板木(はんぎ)のことで、版木の権利を出版業者が持っていますという権利だった。その版木は譲渡可能なものなので、A出版業者がB出版業者に版木を売ると、出版権も同時に売るという形で財産権に近い形で複製の禁止などもある程度はできた。

同じ版木を別の会社が海賊版のようなものを作った場合に、「それを禁止できますよ」という法律を作ったのが1710年にできた「アン法」という始めての著作権に近い形。

その頃は、著作権とは版木という有体物だった。活字という「モノ」のやり取り。

しかし、今のデジタル情報とは「モノ」としての実態をほとんど持たない。

それを、300年前の今と全く違う時代、しかも出版物という非常に限られたジャンルの法律を、色々なものに広げていった。

当初は地図だったものが文学などに広まっていったと言われているが、それが絵や音楽、ソフトウェア、デジタル情報と色々なものに広がっていき、ありとあらゆる情報が全部、著作権法で規制される対象となってしまった。

そうすると、法律の建前と現実とデジタル情報の実態との間に食い違いが大きくなった。

たとえば、「Winny」というソフトウェアが一時期大変流行した。「すべてのコンピューターにWinnyを入れておけば情報がコピーできますよ」というP2Pのソフトウェア。金子勇さんが開発。

これは金子勇さん自身は著作権を侵害していない。Winnyを使って違法に映画をコピーした人が何人かいて、その人たちが警察に逮捕された。ここまでは、外国でも例があった。

しかし、ソフトウェアを開発した金子勇さんも逮捕されてしまったという事件が起きた。


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金子勇さん自身は違法な不正はしてないことがはっきりしているのにも関わらず違法になってしまって、そのせいでP2Pという非常に重要な技術をほとんど開発できなくなってしまった。

ところが、皮肉なことに、インターネットというのは実はP2P。インターネットはクライアントとサーバーで動いていると思っている人が多いが、実はインターネットでIPアドレスを持っているのはISP(プロバイダ)のみ。プロバイダにアクセスしている人は、プロバイダからサブのプライベートアドレスをもらっているだけ。

ISP自身が持っているIPアドレスは、世界中のすべてのホストで同格だから、インターネット自身が実はP2P。つまり、どこにもインターネット全体をホストするサーバーはない。すべてのコンピューターがインターネットをホストしている。P2Pが違法なら、インターネットも違法になる。

最近出てきた「Joost(ジュースト)」という映像配信サーバーやSkype(スカイプ)というIP電話はP2Pでやっている。このような技術も、日本では、開発すると危ないので開発しないということになって、ただでさえイノベーションが少ない日本でどんどんイノベーションの幅が狭まっていく。

検索エンジンも日本の著作権法では違法ということになっているので、サーバーを置くことさえできない、開発はもちろんできないということになっている。

著作権に関しては山ほど問題があるが、特に大きな問題は、通信と放送を著作権法上では区別しているということ。

著作権法上では放送は特権的な扱いになっていて、放送局がラジオでCDを1日中かけても許諾はいらない。JASRAC (ジャスラック / 日本音楽著作権協会)と1年1回包括契約を結んで、いくらか(何千万円か)一括で払って、あとは放送局が自由に使える。

ところが、同じ仕事であるインターネットラジオではこういったことができない。インターネットラジオでは、1件1件許諾を取らなくてはならない。たとえば、インターネットラジオで宇多田ヒカルのCDを演奏しようとすると、JASRACに許諾を取らないと演奏できない。何曲演奏したかを報告して、曲ごとにお金を払わないといけない。

テレビ番組などでビートルズの音楽をバックグランドミュージック(BGM)に使おうとすると、そのバックグランドミュージックにも著作権が発生するので、ビートルズに著作権料を払わなくてはならない。

ビートルズに著作権料をを払うとなると大変で、JASRACもいないので、ビートルズの著作権を持っている弁護士事務所に払わなくてはならない。

ビートルズの曲の単価はすごい高い。へたをすると、1曲1万ドルも取る場合がある。BGMのお金だけで番組予算が飛んでしまう。

BGMにまで1曲1曲、許諾を取らなければいけない状態では、映像コンテンツをインターネットで配信するのは不可能なので、せめて放送局のようにもっと年1回契約する(包括ライセンス)とかもっと簡単な形にしてほしいと通信業者が言っている。

しかし、文化庁は著作権法を1部改正して、地上デジタル放送の再送信だけについては例外を認めるとなっているが、それ以外は依然として通信は放送とは別にしているので、基本的にはバックグランドミュージックにも1曲1曲許諾が必要になる。権利の処理だけでたいていはコストが赤字になってしまうので、結局、誰も配信しない。

他にもややこしいことはいくらでもあって「著作隣接権」というものが存在する。

本来は、著作権法に記されている著作隣接権とは限られているが、著作者以外はレコード会社、映画会社、放送局くらいしかない。

この頃、「俺も著作隣接権だ」と言い始める人がいて、法律上認められていないんだけど、たとえば、Smapの肖像権をジャニーズ事務所が持っていると言ったり。そんなこと法律には書いていないのに。

映画の場合には、基本的には脚本家しか著作権を持っていない。監督は著作隣接権を持つとは明文化されたが、照明や美術や俳優までもが著作隣接権を主張しはじめる。


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有名な話では、HNKが大河ドラマでビデオ化しようとしたら、主演女優が「私はイヤよ」と言ったら、その大河ドラマのビデオ化ができなった。

関係者がどんどん増えていくと、そのうち1人でも「イヤだ」と言うと、その著作物の利用が全くできなくなってしまう。全員が差し止め権を持ってしまう。

昔の番組をインターネットで配信しよう、たとえばNHKのアーカイブをインターネットで配信しようという話もあるが、NHKの番組は川口のアーカイブに60万本のアーカイブがあると言われていて、そのうちアーカイブの中で見れるのが6000本。

今年(2008年)の末からインターネットで配信されると言われているが、1000本も見れないだろうと言われている。なぜかというと、著作者にお金を払うだけではなくて、そこに映っている肖像権をクリアしなくてはならない。

たとえば、有名な水俣病のドキュメンタリーがあるが、そこに映っているひとはすでに亡くなってしまっている。そのドキュメンタリーをアーカイブで放送するために、遺族1人1人に全員に了解を得ないとならない。1年ほどかかった。莫大なコストがかかる。NHKだからできたが、普通はできない。ビジネスとしてなりたたない。

これではさすがに著作物、特にデジタルコンテンツの流通ができないので、様々な改革案が出ている。

ベルヌ条約で著作権が無条件に発生することになっているが、マルシー(C)はアメリカだけは1980年代までは登録制度だった。マルシー(C)というマークを付ければ著作権が発生する、そうじゃなければ著作権は発生しないという方針にしたが、それもアメリカがベルヌ条約に加入した時にやめてしまって、実は今はマルシー(C)マークは意味はない。

しかし、今言われているのは、マルシー(C)マークを復活させて、特許庁や文化庁に「私は著作者だ」という登録をしないと著作権が発生しないようにすること。そうすれば、誰が著作権を持っているか今よりも分かりやすくなる。

もっと大きな問題は、許諾権。情報が世の中に無限に行き渡っている時に、いちいちその情報を2次利用する時に許諾を得るなんてことは不可能だし、許諾する方も面倒。

JASRACと放送局の契約のように1年に1回の包括ライセンスにして、その場合に著作者の中で「どうしてもイヤだ」という人がいたら、強制的にライセンスをさせる強制許諾(compulsory license)を取るようにする。

あるいは、ベルヌ条約とは別に、もっと自由に利用できる代わりにもっと収益をたくさん取れる枠を認めたらどうかと。

著作権は民放よりも優先しない。著作権法違反の契約を結ぶことも民法上できる。だから、「私はすべて著作権を放棄します」という契約もできる。実は、著作権法というのは存在しなくても、民法上の契約をある程度結ぶ仕組みさえあれば、実は著作権法はなくてもよいという議論もある。一番ラディカルな意見。


第3節 独立から解放へ

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ここまでイノベーションの条件について話してきたが、1つ確実に言えることは、かつての製造業の時代のようなモノを発明してコツコツ作っていくやり方と、今のIT時代のイノベーションは同じイノベーションと言えないくらい形が変わってしまった。

昔の製造業の時代のイノベーションの考え方にいつまでもこだわっていると、日本はいつまでも世界から遅れていくことになりかねない。

日本は未だに研究所を持っている企業が多い。

昔はアメリカでもAT&Tのベル研究所やIBMのワトソン研究所など様々な企業が研究所を持っていて、そこに博士号を持った人が集まって、自分の所で開発したものを自分のところで製品化するということがよくあった。

しかし、今のアメリカはIBMのワトソン研究所しか残ってないくらい、中央研究所というものを持っている企業はほとんどない。

なぜなら、今のコンピューターのような製品は、コンピューターの全ての部品を自分の所の研究所で研究開発するのは不可能。早い話が、Windows自体が自社のものではない。

全てを自社で開発するというのは不可能だし意味もない。全く独自のコンピューターを作っても売れない。

にもかかわらず、日本の会社は製造業時代の全て自分の所で作って囲い込んでいくという習慣が抜けない。

日本だけでなく、アメリカでも「NIIH(Not Invented Here)症候群」と言う。つまり、自社開発の技術じゃないと使わないという癖が古い大企業ほどある。

日本だと、NTTが90年代にISDN(NTTの特許)を売り込んで1000万世帯くらいまで普及したが、結果的にはインターネットが出てきて、今となっては存在はしているけど、新たにISDNの契約をする人はいない。

デジタルハイビジョンはNHKの特許ではない。NHKが開発したハイビジョンは「MUSE」という技術で、アナログのハイビジョンテレビ。この特許をNHKは持っていたが、もう捨ててしまった。

デジタルの「MPEG-2」というハイビジョン技術はNHKは何の特許もない。

にもかかわらず、NHKが「MUSE」という技術にこだわって、今あるテレビはハイビジョンじゃないのに「デジタルハイビジョン」と名前を付けて、未練がましいことをしている。

こういったことやってきたおかげで、日本のテレビ技術は変なことになっている。

あるいは、NTTドコモがかれこれ15年くらい使ってきた「PDC」。NTTが開発し特許を持っている技術。

この「PDC」はITU(国際電気通信連合)で標準化をした時にヨーロッパ規格の「GSM」に負けた。

負けたのだから「GSM」を使えばよかったのに、「NTTが開発した技術だからこっちの方が性能がいい」とか言って日本の携帯電話業者は皆「PDC」を使えという行政指導をJDC(Japan Digital Cellular)がやった。そして、NTTドコモも他の2社も「PDC」とうい規格をずっと使ってきた。

すると、世界中の携帯電話の8割は「GSM」になってしまって、「PDC」のシェアは今は1%ないくらい。

すると、どういったことが起こるかというと、日本で携帯電話を作るとだいたい1台数十万台売れる。100万台売れたら大ヒット。

ところが、「GSM」は世界中どこでも売れるので、たとえば、Nokiaの「1100」という一番ポピュラーな機種は1機種で2億台も売れた。

開発費は日本の携帯電話とほとんど同じ。同じようなものをつくって、こっちは100万台で、こっちは2億台。1台当たりの固定費は200分の1になるから国際的なマーケットで競争にならない。

おかげで、日本の携帯電話は「ガラパゴス携帯」とよく言われる。2桁くらいロットが小さいので、NokiaやMotorolaやericssonと勝負にならない。国内でもの凄く小さいマーケットを分け合っている。

日本の携帯電話は10社くらいあるが、世界全体のシェアの1割ない。Nokia1社で世界のシェアの35%もあるのに、日本のメーカーは10社合わせてもNokiaの3分の1にもならないというひどい状態。

携帯電話のようなマイクロエレクトニクスは日本が一番得意としている分野なのだから、本当は携帯電話のマーケットは日本メーカーが世界を制覇してもおかしくなかったのに、自前の技術に携帯電話のキャリアが固執してしまった。NTTドコモが固執して、しかも行政がそれを応援してしまった。


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すると、そのキャリア(NTTドコモなど)が下請けとしてメーカーを支配するという構造になってしまった。

おまけに、流通コストもキャリアが全部負担して、日本の携帯電話はメーカーはリスクを負わない。メーカーの端末はキャリアが全部買いきる。それを小売店に卸す。

小売店に卸す時も販売奨励金を払う。たとえば、5万円の端末を売ってもらう時に売れたら4万5000円の販売奨励金を出す。小売店は5万円の端末を1万円で売っても利益が出る。場合によってはゼロ円携帯などもある。

お客さんにしてみるとすごく安くなっているように見えるが、結局は月々の料金に上乗せされているだけで、長いこと使えば使うほど損をする。

つまり、携帯キャリアがメーカーも流通も全部支配するという構造になってしまい、日本国内でバリューチェーンが完結するという仕組みを作ってしまったので、世界のマーケットに売れない。

今頃になって一生懸命、中国などに売ろうとしているが、Nokiaと日本のメーカーはコストが1桁違うので全く競争にならない。日本のメーカーはNokiaに勝てない。

携帯電話はもの凄い成長産業で、これから途上国を含め、まだまたマーケットが広がると言われているが、Nokiaの一人勝ちのような状態になってしまい、日本の携帯メーカーは日本以外ではアジアでさえ、中国でも韓国でもヒィリピンでもどこでも売れない。非常に危機的な状態。

これはある種の「NIH症候群」。全部、自前で作ろうとして結局、国内の狭いマーケットでしか売れないものを作ることになってしまった。

逆に、アメリカのメーカーは割り切ってしまい、もともとバラバラの技術を寄せ集めているのだから、一番安く良いものを作れるメーカーに作らせて、国際的に一番安くて良いものを調達すればいいと考えている。

これはデルの最初にやり始めたシステム。デルの本社の横には各部品メーカーの工場が建っている。デルに注目が来ると、工場から部品がすぐに出荷されて組み立てられる。

お客さんの注文が入ってから組み立てる。デルが自分で作っている部品なんて何もない。「DELL」というマークが付いているだけであって、中身はよそのメーカーの部品を集めているだけ。ほとんど流通業者みたいなもの。こういう会社を「ファブレス(Fabless / Fabric less / 工場を持たない企業を指す造語およびビジネスモデル)」と言う。デルやシスコ、クアルコムといった研究開発だけをやっている会社。

逆に今度は、製造だけをやっている会社もある。台湾や中国などに多い。日本で作っている半導体もほとんど台湾で作っている。

製造専業の会社と開発専業の会社で、完全に分業になっている。

ところが、日本は全部、自前で作り込むという仕組みを作ってしまったので、今のような国際分業の時代に対応できないことが深刻な問題。

これに対して、日本でも「そういうのはやめましょう」と色々と議論が出てきていて、「オープン・イノベーション」をハーバードビジネススクールのチェスブロウ(Chesbrough)が言っている。

OPEN INNOVATION—ハーバード流イノベーション戦略のすべて
Henry W. Chesbrough 大前 恵一朗
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彼の「オープン・イノベーション」という本を読むと、たった1つだけ日本の技術が出てくる。それが、NTTドコモのi-mode。

NTTというのは非常にクローズドな会社なので、好きでやったわけじゃないが、ある意味でまぐれ当たりだった。

榎啓一さんがゲートウェイ事業部長となりデータ通信をやった。PDCPというドコモの独自のパケットを使って、コンピューターにドコモのモデムを入れてワイヤレスで通信するというシステムだったが、あまりにも使いにくいものだったので、お客さんはつかなかった。

でも、インフラだけは残っているから、上司から「榎、何かやれ」と言われて、全く部下がいかなったので、よそから夏野剛さんや松永真理さんを呼んできた。

パケットのシステムだけはできていたので「インターネットでやろう」ということで、コンテンツをCHTML(Compact HTML)で書いて、ゲートウェイを切れてインターネットに全部投げて、あとはhttpといった普通のインターネットのプロトコルで通信することにした。

榎啓一さん曰わく「インターネットの丸投げの安易なシステム」と。とにかく技術が分かる人がいなかった。コンピューターに詳しくない人たちがやっていたような状態で、メンバーは技術が分からないから「あとはインターネットにしちゃえば、インターネットの世界にはたくさんの人がいるんだから。」ということで始まったのがi-mode。これが、ドーンと当たった。


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実は、i-modeと同じ時期にWAPというものがあった。世界標準として携帯用のプロトコル。インターネットとは全く違うプロトコルでやろうとしたが、200数社が集まっていたので話がまとまらずモノが出てこなかった。

一方、ドコモのi-modeはドコモ1社でやっているし、中身はCHTMLで書いていてプロトコルもhttp(要するにIP)で、全く持ってインターネットに丸投げ状態で何も考えてないから、ごく普通のユーザーでもi-modeサイト、いわゆる「勝手サイト」を作ることができた。

ドコモは最初は自前でサイトは作らなかったんだけど、「HTMLをサポートしますよ」と言った途端に、バァーと勝手サイトがたくさんできた。

様々な情報の何万という勝手サイトができて、ドコモは何も努力しないのに、世間の人々が勝手にドコモのコンテンツを作ってくれて、i-modeがWAPなんかよりも遙かに大ヒットして、今はi-modeが世界標準になって「WAP2.0」以降は完全にi-modeになっている。

これが、日本で唯一成功した例としてチェスブロウ(Chesbrough)が挙げている例。

もともと、NTTはやる気がなかったから、インターネットに丸投げしちゃっただけであって、まぐれ当たり。真面目にやった「FOMA」は上手くいかない。

このように、これからはオープンにしないと流行らないということで、究極にオープンなのがオープンソース。Linuxなど。

オープンソースでどうやって収入を上げるのかというと、IBMの場合はLinuxのサーバーのメンテナンスをやる。IBMがやるといっても、IBMの製品はほとんど使わないで、よそから集めてきてSI(System Integration)の部分だけIBMがやるという形で収益を上げている。

【最後のまとめ】

これまでの日本型のイノベーションというのは、製造業型でコツコツ積み重ねていって、今までのものを少しでも良くしましょう、品質を管理しましょう、小さく早くしていきましょうという堅実なビジネスが良くも悪くも日本人が得意とする分野だったが、ITの分野のイノベーションはいってみれば、乗るか反るかの博打みたいな要素が非常に大きくなってきた。

今までの製造業型で起こる問題というのは、品質管理で100のうち1つくらい不良品が出る。統計学的にリスク管理ができる。

一方、YouTubeというものをピザ屋の2階でお兄ちゃん2人が始める。これはバカ当たりするかもしれないし、著作権法違反で訴えられて破産するかもしれない。リスクというよりは「1」か「0」。訴訟で負けるかもしれないというのは確率なんて計算できない。

フランク・ナイトが1921年に書いた「危険・不確実性および利潤」という本の中で、リスクは保険でいくらでもヘッジできるが、訴訟を起こされるとか、新製品がヒットするかどうかなんて分かりっこないんだだから、経営者が自分の責任で決断するしかない。利潤というのは実は決断の報酬なんだ。損害で会社が倒産するのは経営者がバカなんだと言っている。

今起きていることというのは、リスク型の問題から不確実性型の問題への変化が起きている。特にイノベーションの分野でそういう変化が重要になっている。

悪い方で言うと、世界恐慌型のサブプライム危機は、普通の正規分布では数約億年に1度しか起きないんだけれども、それが10年に1度起こる。

それから、イノベーションも予測が不可能だ。Nassim Nicholas Talebという人の「The Black Swan」というベストセラーが去年ありましたが、黒い白鳥みたいなもので、いつ出てくるか分からない。

The Black Swan: The Impact of the Highly Improbable
Nassim Nicholas Taleb
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最初から計算することはできないので、もうやってみるしかない。で、失敗してもしょうがない。失敗した場合にはズルズルと不良債権みたいにいつまでも追い貸ししたりして延命しないで、失敗したらすぐに撤退する。exitして気を取り直してまたやる。

『「不確実性」の元でのイノベーションの考え方というのは、これまでの「リスク」の元でのイノベーションとは全く違うんだ』ということがこの講義の結論。

ですから、イノベーションというものを考える時も、今までのような製造業型のコツコツ積み上げていくリスク管理型のイノベーションとは違うんだということ、くれぐれも考えた方がいいというのが、この講義の結論。


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